非正規労働者の絶望

タロ・カポネ いい気なもんだ 金持ち麻生(現財務相)が座るいすの最底辺で坤吟(しんぎん)しているのが、1600万人、労働人口の三分の一を占める非正規労働者群である。そのうち日雇い労働者は、350万人を超える。 
 そのひとりが、秋葉原事件のK容疑者だった。彼が犯行前におこなっていた携帯サイトへの書きこみには、日雇い派遣労働者の絶望がつたえられている。

 彼が派遣されていた、トヨタ車メーカーである関東自動車は、日雇い派遣元の日研総業にたいして、契約を打ち切り、派遣労働者をカットする、と通告していた。 
 「あ、住所不定無職になったのかますます絶望的だ」 
 「それでも、人が足りないから来いと電話がくる 俺が必要だから、じゃなくて、人が足りないから 誰が行くかよ」 
 「仕事に行けっていうなら行ってやる 流れてくる商品全部破壊してやる」 

 彼が激情に駆られたきっかけは、出勤して作業場へ行ったとき、自分のツナギの作業着がロッカーのなかに見当たらなかったのをみて、解雇された、と思ったからだ、とつたえられている。携帯サイトには「辞めろってか」と書いている。
 彼は契約打ち切りに脅(おび)えていた。解雇は無職になるばかりか、「住所不定」を意味する。派遣会社が借り上げているマンションに住んでいるので、解雇=ホームレス、となるのだ。住所不定になる恐怖は、東京出身者にはわからない。
 ひとが足りないから来い、といういい方にもカチンときていた。だれでもいいから来い、というのはプライドを傷つける。もともと、労働者を「部品化」した派遣法自体が、プライドを粉々に打ち砕く。
 

 自動車組み立て工場への派遣賃金は、製造業ではもっとも高く、およそ三割をピンハネされても、時給1200~1300円ほどである。それでも、派遣元に部屋代などを差し引かれると手取り20万。休日が多いときはもっとすくないから、貯金はない。派遣先の都合で一方的に解雇されると、マンションを借りることもできず、路頭に迷う。 
 17人もの人びとを、いきなり死傷させたK容疑者の罪は、あまりにも深い。しかし、彼をそのような進退きわまるまでの絶望に追いこんだものの責任が、一切問われないとすれば、あまりにも不公平である。 

 人間を犯罪に追いこむ政治をおこなっておいて、重罰化を主張して13人もの処刑を連発、死刑制度を強化しようとする、鳩山邦夫元法務大臣のような四代目もまた、格差社会のチャンピオンである。 
 秋葉原事件のあと、派遣労働者のなかから、K容疑者を支持する声が上がったのは、彼が自分たちの現状を切りひらいてみせてくれたからだった。犯行を支持するものまであらわれたのは、かれらの絶望の深さを物語っている。K容疑者自身、「犯罪者予備軍って、日本にはたくさん居る気がする」とも書いているのは、彼は身のまわりにいる絶望者たちをよく知っていたからだ。 

 秋葉原事件のショックを、社会改革の問題として受けとめ、明日をも知れぬ派遣労働者の生活の苦況を救うためになにができるか。それを考えるのが、政治家や官僚や社会運動家やジャーナリストたちの責務のはずだ。 
 問題は、派遣労働者を自暴自棄にさせている、非人間的な労働構造を、社会運動によってどう変えていくかだ。わたしは集会を呼びかけ、参加し、労働者の運動につき合っているが、自分にとっても日本をこれからどういう社会にしていくのか、その構想力がいま問われている。


『いま、逆攻のとき 使い捨て社会を越える』大月書店、2009年5月
写真上=国会議事堂で売られている「タロ・カポネ」(編集部)
写真下=秋葉原事件、最初にトラックで人をはねた交差点の現場検証。photo by carpkazu,Creative Commons Attribution-Share Alike 3.0 Unported license.
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