犠牲者の絶えない米軍基地の街・横須賀

 米海軍基地の街・ヨコスカは、今村昌平の映画『豚と軍艦』(1961年)の舞台である。といっても、映画は反戦運動がテーマなのではない。基地の残飯で豚を飼っているヤクザ組織のチンピラと、その恋人の青春を描いた作品である。 
 チンピラを演じた長門裕之の好演技が、いまでも目に残る傑作だった。この映画にはすでに、米兵による集団レイプのシーンが登場していた。 

 米軍基地と米兵のレイプや暴力事件は、密接不可分の関係にある。
 2006年1月3日、神奈川・横須賀市内の路上で発生した航空母艦「キティホーク」乗組員による、日本人女性殺害事件は、イラクで敗色濃い米軍の焦燥と無秩序を背景にしている。 人口42万の横須賀市には、米兵1万人と家族など関係者2万5000人が駐留している。
 ミサイルを装備した巡洋艦や駆逐艦などがここを「母港」としているのだが、全長324メートルの「キティホーク」は、乗組員2930人と、最大の軍艦である。
 キティホークは、米軍イラク侵攻の初戦、ペルシャ湾に派遣され、バグダッド市内へのミサイル攻撃をささえた空母である。

 日本に配置されている米軍基地は、米国世界戦争戦略の最前線だが、沖縄の嘉手納空軍基地とならんで、横須賀の海軍基地がはたしている役割は大きい。 
 戦争から帰ってきて、あるいは戦争にむかうまえの、気持の荒(すさ)んだ数千人の兵隊を閉じこめている基地のまわりには、ケバケバしい色彩のバーと違法風俗店が毒キノコのように繁茂している。夜になると、目をギラギラさせた若い兵隊たちが、獲物を狙って街を歩きまわっている。 

 殺人事件のちょうど1年前、2005年1月4日深夜、基地からさほど遠くない葉山町の路上で、裸の米兵が倒れているのが発見された。32歳の退役軍人だったが、基地内のギャング集団「クリップス」を脱退しようとして、全治1カ月におよぶリンチを受けたのだ。 
 この傷害事件をきっかけにして、基地ヨコスカに、複数のギャング組織が存在していることが判明した。米本土のギャング団経験者が基地内で仲間をあつめ、メンバーは胸にタバコの焼き印をつけている、薬物のネットワークもある、という。 

 加害者は3人だったが、横浜地裁横須賀支部での裁判は、分離裁判となった。主犯格の男は基地から米国に逃亡した。 
 法廷で、「ギャング団」の存在を告白した24歳の被告は、そのあと、本人と家族を殺す、と脅迫されるようになった、と証言した。彼にたいする判決は、懲役2年だった。が、執行猶予4年となった。暴力行為があっても、実刑にされなかったのだ。 
 被害者の妻は、加害者は「すぐ米国に帰国するので、猶予刑は納得できない」と訴えている(『毎日新聞』2006年3月19日)。 

 ヨコスカ米兵の犯罪は、1997年3月に、米兵の妻(日本人)が殺害される事件や、47歳の自営業の男性が三人組に襲われて重傷を負う事件(未解決)、女性が傷害をうけたり、飲酒運転による衝突事故、タクシー乗り逃げなどがひんぱんに発生している。
 キティホーク乗組員の事件だけでも、悲惨な佐藤好重さん殺しの前後1カ月間で、暴行・窃盗などが4件も起こされている。 (つづく)

『痛憤の現場を歩くⅡ 絶望社会』金曜日、2007年9月

写真=アメリカ合衆国海軍空母「キティホーク」, U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 1st Class Brandon Raile (Released)
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