国家と秘密

 あまりにも前のめり、常軌を逸している。どうしてこんな重大なことを、世論の反対を押し切ってまで政府は強行しようとしているのだろうか。
 テレビの討論番組で、自民党防衛族の中谷元氏が、「NSCと秘密保護法案とはセット」と語っていた。日本版NSCは米国の国家秘密を守る組織を真似したもので、与党多数の衆院であっという間に採決されたが、それと同時に準備されているのが、「国家秘密保護法案」だ。

 外交や防衛秘密を守り、テロ、スパイ活動を防止するための法律、という。この法律のあたまに「特定」をつけたのは、「戦略特区」とか「限定社員」とかいって、いままで法律で禁じられてきたことを、「ほんの一部、ここだけに限ってのこと」といい訳をして、いったんはじめ、どんどん拡大していく、戦略的やりかたである。

 これらは、規制緩和で企業活動や社員の雇用条件を自由化する方法で、たとえば、「労働者派遣法」などは、そのような戦術で適用範囲を拡大してきた。最初はプログラマーや通訳など「専門職」に限定し、それから幾つかの職種に拡大し、2004年に一気に「工場労働に」に応用、いまや労働人口中、非正規労働者三分の1と言う状態をつくりだした。さらに建設業や港湾労働や警備などの労働への規制も外そうとしている。
 このように、政治ははじめチョロチョロ、中パッパ、「既成事実」を隙を見定めて拡大していく手法を執る。

 「特定秘密保護法案」は、「なにが秘密なのかは秘密」と批判されているように、政府につごうが悪いことはすべて秘密にされる、と懸念されている。秘密の指定は行政の長が定める、という恣意的な法律である。それも罰則が最高10年の懲役、という。
 85年当時に自民党政府が準備していた「国家秘密法」は、最高が死刑だったから、それよりは減刑されたものの、この法律で「秘密」と「取締り」の窮屈な社会になるのは、容易に想像できる。

 世論調査でも、国民の八割以上が慎重な審議を求め、憲法学者の250人以上が反対を表明しているトンデモ法案である。最大野党の民主党は溶解状態で、反対を言えない中途半端が大きな災いとなっている。
 新聞は読売、産経以外は、社説で反対を唱えている。とりわけ、東京新聞は「議員の良識で廃案へ」と堂々たる社説を掲げている。国会が秘密に縛られ、議員でさえ処罰される、議会制民主主義の危機に無関心な国会議員の危機意識の欠如に、神経の覚醒を訴えたい。

 これだけ、無神経な国会議員がいる事態が、日本の秘密といえる状態である。1月8日の衆院国家安全保障特別委員会で、自民党の橋本岳議員が、「安全保障の問題で、国民に情報が与えられなければ、大本営発表の再来になる」と危機感を表明した。与党内部でさえ、良識的な議員なら賛成できない法案なのだ。
 「特定」どころではない、軍事、外交についてなら、なんでも秘密状態になりそうなのだが、怖いのは、秘密を防衛するための「取締り」である。

 内閣府特命担当大臣という、肩書きを持つ森雅子議員は、「正当な取材活動は家宅捜査しない」と弁明しているが、当たり前のことで、なにが正当で、なにが不当な取材なのか、それを警察が判断する。警察国家になることが心配なのだ。
 東京新聞は、法案中、36の「その他」がある、と批判、拡大解釈の虞(おそれ)を訴えている(11月8日)。有効な暴露である。
 安倍首相は、いままで集団的自衛権承認を拒否し続けてきた、内閣法務局長官のクビをすげ替え、NHK会長や理事もトモダチ人事で固めようとし、自ら「軍国主義者」を自称している。それでも自民党には、自浄作用はない。

 専守防衛の自衛隊を、米軍の後ろに付いていく「米衛軍」にし、その軍事作戦の秘密をちゃんと守れ、というのが、米政府の要求のようだ。 
 「美しい国」というなら、安倍首相よ。日本をふたたび、戦火に曝(さら)すな。

『先見経済』2013年12月号

写真=米軍の空襲で炎上する名古屋城(1945年5月14日)Japanese book Showa History of 100 million people: Vol.4 published by Mainichi Newspapers Company、著作権満了
関連記事

コメント


トラックバック

暗黒時代に なるのか?

クリエイティブ・コモンズの了承を得て、転載。 救援連絡センター発行「救援」紙の、2面の連載コラムより。 暗黒時代に なるのか? 故・向井孝さんが生前たびたび「戦前の社会よりも今のほうが悪くなっている」と語っていた。戦後は、治安維持法などはない...

2013年12月03日(火) 10時44分 | 千恵子@詠む...

↑
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。