TPPで進む日本の植民地化

TPPをめぐる2011年11月の文章ですが、現在のインドネシア・バリ島での交渉過程と重ね合わせてみてください。

 民主党政権は、鳩山・菅と2回の短期政権を経て野田佳彦首相に引き継がれたが、ますます自民党政治と変わらない財界寄りの政権となっている。
 これは自民党に代わる新政権のどん詰まりであり、新しい時代を期待した民意を真っ向から踏みにじる愚かさの出発である。  

 TPPへの参加については、「仮に(TPP)交渉に参加した場合、交渉の中で新しい事実が出てきた。それが日本にとっては到底受け入れることのできないものであれば、その上で交渉から抜ける選択肢は私は当然持っておくべきと思う」(日テレニュース)と、前原誠司政調会長(当時)は語っている。しかし一旦、国策として方針を決めたのち、不都合だから止めるなど外交上の失政であり、できるはずもない。とにかく参加させようという甘言は、まるで子どもをだます誘拐犯のようだ。
 さすがに最大の旗振り役である経団連の米倉弘昌会長も、「離脱とは不穏当な表現だ。交渉入り後に途中離脱することはありえない」(『産経新聞』2011年10月24日)と批判している。  

前原誠司 しかしTPPに参加させたい意向は2人ともに一致している。前原政調会長は「TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の慎重論、反対論の中には、事実に基づいた不安感と同時に、事実に基づかない議論もある。これを私は『TPPおばけ』と言っている」(『毎日新聞』2011年10月14日)と反対論を切り捨て、米倉会長は「怪情報が飛び交って国民の不安をかきたてている。非常にまずい」と語った。
 「おばけ」や「怪情報」といった決めつけは、初めから参加ありきの姿勢をあらわわしたものだ。 

 1978~1979年にかけて第1次牛肉・オレンジ自由化交渉がおこなわれ、日本は農産物の自由化へと踏みだした。そのため、せっかく植えたミカンの木を農業者が伐採する破目になった。もちろん温州みかんが買えなくなったわけではない。ただみかん果汁では、輸入オレンジの10分の1以下シェアしか確保できなくなっている。
 これまで米国は、工業製品の輸入で一定程度譲歩しながら、主力産業である農産物の輸出について圧力をかけつづけてきた。それにたいして日本はなすすべなく門戸をひらき、対抗策として農業の大規模化という方針を打ちだした。

 しかし日本の地形・風土を無視した大量生産計画など蟷螂の斧というべきものだ。大規模化を目指した畜産や酪農が撤退し、荒れ果てた牧草地が全国に出現している。
 米国の農業に日本が対抗しようなど、客観的に分析すれば笑い話でしかない。ところが真珠湾攻撃以来、まったく見通しを欠いた精神論だけで戦争突入、退却に次ぐ退却といった「日本の伝統芸」が戦後も繰り返されてきた。
 そもそも農業は商品をつくっているのではなく、食料を生産しているのである。農業の国際競争力を高めるといった発想は、食料を商品としてしか考えない財界人特有の誤りだ。

 しかも今回のTPPは、農業ばかりか医療やサービス、金融などあらゆる分野の自由化を目指すものだ。国内の体制が大きく変化するといわれているが、その詳細はいまだに明らかにされていないのである。外務省は「外交上の機密だからいえない」と、小出しにしか情報を開示しない。これは目隠ししてスタートラインに着けというに等しい。
 そもそもTPPは自由貿易協定(FTA)の1つである。FTAは関税ルールを二国間で決めるが、TPPは日本を除くと9ヵ国が交渉に参加している。しかし日本を加えた10ヵ国のGDPを比較すると、全体の90%以上を日米が占めるという。つまり実質的には日米のFTAなのである。「属国」日本を狙い撃ちした協定なのだ。
「鎌田慧の現代を斬る」2011年11月5日

蟷螂の斧(とうろうのおの)…力のない者が、自分の実力もかえりみずに強い者に 立ち向かうことの喩え
写真=前原誠司衆議院議員(amazon associate license)
スポンサーサイト

中国脅威論の裏で利益をあさる米国


中国の人権意識


 アジアの死刑大国の1つは中国である。政治犯にたいす処分が重いのは、2010年のノーベル平和賞を受賞した劉暁波氏への処分でもあきらかになっている。
 同賞の選考委員会は、中国の非民主主義的な体制の実態をクローズアップした。そこに政治的意図があったことは疑いがない。

 しかし、劉氏は「一党独裁の廃止」や「都市と農村の平等」など、自分の意見を発表しただけなのに投獄されている。また、89年には天安門広部における民主化要求運動のハンスト運動を指揮したが、突入する軍の幹部と交渉し、市民の犠牲を最小限に食い止めた人物としても知られている。
 この非暴力の運動家を弾圧し拘束するなど許されるわけではない。受賞により中国の民主化が推進され、また劉氏への注目が集まることで彼の安全性が高まるなら、きわめて意義深い受賞といえる。
 
  この受賞について、中国側は「中国の法律を犯し刑罰を科された人物」への受賞だと主張。ノーベル賞を決める委員会のあるノルウェーとの会談のキャンセルなどもおこなわれた。

                 劉暁波 オスロ、10 December 2010 
          the public domain because it is material provided by Voice of America

               
 しかし国際社会での重要な位置を占めようとするならば、中国の共産党独裁政権の人権に対する国際的な批判は、当然のことである。
 中国政府はインターネットでの関連の用語を検索できなくしたり、国際放送のニュースで劉氏の受賞部分だけ流れないようにするなど、国内で情報の伝播に注意をとがらせている。
 しかし、情報をまったく遮断することはできない。東西ドイツを隔てた壁が通信衛星を受信した国民によって壊れたように、民主化を求める市民に口コミで情報が広がることによって、民主化の圧力はますます高まっていくはずだ。   
 政府自らが民主化を進めていかないかぎり、現政府は存続できない。この受賞を民主化推進の契機とすべきだ。 

 この中国との問題で圧力を強め、利益の確保にはしっているのが米国だ。以前にも牛肉の輸入を再開させるのと引き替えに、クリントン国務長官は「尖閣は安保範囲」と発言した。かつての主張を繰り返すだけで、安全性の怪しい牛肉を売れるのだから安いものだ。  

 さらに今度は思いやり予算の増額も求めてきた。
 「日本の安全保障環境が悪化しているのだから減額できない。増額が必要だ。何か増やせるものはないか」(『朝日新聞』10年10月20日)
 このセリフは日米の協議で米側が繰り返してきたものだという。実態の怪しい中国脅威論にかこつけて、ハイエナのように米国が群がってきたというわけだ。
 この米国の要求に日本政府は屈し、環境対策費として数年間にわたり数十億円規模を、思いやり予算に加えることとなった

「鎌田慧の現代を斬る」より

公文書が明らかにした米国従属と管理強化の推進

 鳩山由紀夫元首相が、普天間飛行場の移設について「最低でも県外」と明言したことが懐かしい。鳩山元首相は実行力がまったくないまま、世論の批判を受けて沈没した。
 しかし彼は、日米安保を「駐留なき安保」に変え、「東アジア共同体」を掲げて、米国従属から少しでも離脱しようという姿勢をしめしていた。これがあたかも虎の尾を踏んだように、米国の批判にさらされたのだった。
 
 それを証明する公電が、ウィキリークスの公開した米外交文書からみつかった。ソウルを訪問したキャンベル米国務次官補は、韓国の大統領府で金星煥(キムソンファン)外交安保主席補佐官と会談。その内容を要約したものに、こんな記載があったという。
 「両者(キャンベル、金)は、民主党と自民党は『全く異なる』という認識で一致。北朝鮮との交渉で民主党が米韓と協調する重要性も確認した。また、金氏が北朝鮮が『複数のチャンネル』で民主党と接触していることは明らか、と説明。キャンベル氏は、岡田克也外相と菅直人財務相と直接、話し合うことの重要性を指摘した」(『東京新聞』2011年1月20日)
 
 問題は、この文章の交わされた時期が、鳩山政権下だったことだ。鳩山ののち、菅か岡田を首相にしたいという米国の要望がここにあらわれている。この文章が送られた2ヶ月後、ワシントンポストは鳩山を「ルーピー」(現実離れした愚か者)と酷評して政権に打撃を加えた。
 また、東京新聞によれば、このころ渡部恒三元衆院副議長が講演で次のように語ったという。
 『普天間問題を解決できずに鳩山君が責任を取ったら、おそらく菅直人くんが(首相に)なるでしょう』と発言」。

 菅のライバルだった小沢一郎幹事長(当時)は、嫌疑不十分で不起訴とした東京地検特捜部の検事から検察審査会が意見を聞くなど、金銭疑惑の対応に追われ、代表なるにチャンスをつぶしかけていた。
 つまり米側の菅支持、鳩山・小沢嫌いの影響が確かにあったわけである。もちろん小沢が米政権の期待を裏切って首相になったとしても、どれだけ日米安保と辺野古移設反対で頑張れたかはわからない。しかし、これまでも噂されてきたように、首相になる人間は宗主国・米国の信任を得ないといけないという伝説が証明される結果となった。

 菅首相になってからは、普天間飛行場の辺野古移転を後押しし、日米共同統合演習を実施、思いやり予算の名称を「ホスト・ネーション・サポート(HNS)」に変更、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加も表明した。さらに原発の輸出や世論の反対でつぶれた武器輸出など、米政権と財界の操り人形のようになっている。

 ところが米依存のお粗末な政策を裏切るかのように、米国は中国に急速に接近した。1月19日、胡錦濤国家主席(当時)が訪米し、米中首脳会談がひらかれた。これは大げさにいえば、世界第2位の経済大国となった中国が世界第1位の大統領と、世界経済を牛耳ろうとする会談となった。
 中国側の要求を受けて、胡錦濤があわられる場には赤絨毯を敷き、国賓並みの待遇となった。ホワイトハウスでは21発の礼砲や国歌演奏をするなど最大限の待遇を整え、中国の関心をかった。

「鎌田慧の現代を斬る」より 2011年1月

写真=握手をする鳩山元首相とキャンベル国務次官補、うしろはヒラリー国務長官(2010年5月21日)、State Department Photo / Public Domain 

密漁で殺された日本人はいない

色丹島  北方4島の領海では、根室の漁師たちによる密漁事件が相次いできた。これまでにもすごい数の拿捕者が発生している。あるいは韓国との間の李承晩ラインを超えた漁師たちも、韓国政府によって大量に拿捕(だほ)されている。 
 これは他国の領海内に浸入して密漁した明確な犯罪行為であったが、ほとんどは拿捕だけで終わっている。

 最近拿捕された根室漁民を、私はサハリンの刑務所やシコタン島にある警察の留置所で面会し、その事実を確認している。
 またロシアの国境警備隊の若い砲手にもインタビューした経験がある。これは追跡劇のなかで射撃され拿捕された事件であり、船体を射撃されたあとに水没しきわめて珍しい事件があったときに取材したものだ。
 
 戦後50数年のなかで、日本の漁師が旧ソ連領海内、あるいは韓国領海内で犯罪行為を働いていて、乗組員が射殺された例はなかった。にもかかわらず日本では、領海外の船が「不審船」というだけで、射撃して沈没させ、全員を殺害した。この政府による「テロ攻撃」は、過剰な行動だったとわたしは考えている。
 これは証拠のないテロルの「首謀者」1人を殺害するために、トマホークをはじめとする大量のミサイルや爆弾を投入したアメリカと、そっくりのやり方である。アメリカにあるニューハンプシャー大学のマーク・ヘロルド教授の推計によれば、昨年12月6日の時点でアフガニスタンでの民間死者が3700人余となり、米英軍に殺害された無辜(むこ)の市民が、同時多発テロによりニューヨーク・ワシントンで殺害された人数を超えたという(『朝日新聞』2002年1月8日)。
 これ以外にも、老人・子ども・女性を含む数百万単位の難民の運命や、飢餓や病気による子どもの死亡などの悲劇が起こっている。その責任を誰が取るのか。
 
 外国船を攻撃して沈没させたのは、日本の戦後史のなかで初めてである。そこから日本がまた軍事大国の道にむかうのか、あるいは初めてにして最後の外国人殺害事件にするのかが問われている。
 しかし事件後、自民党の赤城徳彦議員は、「日本の領海内で発見されていれば、危害射撃が可能だった。領海外で見つけた場合も、危害射撃を可能にするように法改正すべきだ」などと発言している。このままの自民、公明、保守の連立政権の日本では、ますます軍事大国化の道をすすむようだ。
(「月刊 記録」2002年11月)

写真=色丹島1990年,Photo by Витольд Муратов, クリエイティブ・コモンズ 表示-継承 3.0 ライセンス

最近のニュースから 「全米で在米中国人の抗議デモ」(編集部)


米ABCの中国人侮辱発言問題 全米各地で抗議デモ
テレビ朝日系(ANN)ニュース 11月10日(日)7時30分
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20131110-00000010-ann-int

 アメリカの人気コメディアン、ジミー・キンメル氏のテレビ番組で、「中国人を皆殺しにすれば良い」という発言があったことを受けて、全米各地で抗議活動が行われました。
 デモ参加者:「大量虐殺を促す発言で、すべての中国人と人類の感情を傷つけた」  
キンメル氏はすでに謝罪していますが、アメリカに住む中国人らの怒りは収まらず、放送したABCの拠点があるニューヨークなど、全米20都市以上でさらなる謝罪を求める抗議の声が上がりました。  〈ここまで引用〉

 詳しい内容は、10月16日に放送されたキンメル氏の深夜トーク番組のコーナー「キッズテーブル」で、中国からの借金がアメリカはとても多いのだけどどうしたらいいだろうか?という質問に対して、ひとりの子どもが「中国人を皆殺しにしたらいいよ」と発言し、観客が爆笑したあと、キンメル氏も「それいい考えだね」と同意する発言をおこなったのである。
 このやり取りに在米中国人は強く反発し、放送後、ABCテレビには抗議が殺到した。キンメル氏も米ABCも公開謝罪しているが、11月10日を過ぎても在米中国人の怒りは収まらず、キンメル氏の解雇などを求める抗議行動は全米各地26都市以上に拡大している。また、ひと月たってホワイトハウスに届いた抗議の手紙は10万通を越えている。  

 キンメル氏は、「申し訳なかったが、わたしはコメディアンであって、人を笑わせるのが仕事だよ」とコメントを出しているが、在米中国人の抗議が止む気配がないのには、一つには現在のアメリカ社会の抱える深刻な差別問題がある。
 日本では「格差社会」といったごまかしに近い言葉でオブラートに包んでいるが、アメリカでは民族による差別だけでなく、賃金などの経済的差別の拡大、さらに社会保障も含めた生存権や社会権に関わる差別の拡大が、2001年の9.11同時多発テロ以降目に余る状況になっていて、社会の基盤が危ういものになっている。  
 さらにもう一つ。現在のアメリカ社会の支配層の祖先たちによる過去の残虐極まりないアメリカ大陸侵略の歴史が、この20年間で相当明らかにされていることも忘れられてはならない。

 今回の事件で、ドイツ・ナチスと同じ用語、皆殺し(“You kill everyone in China,” )が用いられていると在米中国人団体は抗議しているが、アメリカ大陸の歴史そのものが17世紀から19世紀にかけて「皆殺し」の歴史でもあった。先住民族との間に結んだ180余りの条約をすぐに反故にして(ひどい例では、翌日に破っている)、西へ西へと侵略を続け、1000万人程度いたといわれる先住民族が20世紀前半には30万人程度になるまで殺戮を繰り返した。(この歴史については、藤永茂『アメリカ・インディアン悲史』朝日選書、鎌田遵『ネイティブ・アメリカン―先住民社会の現在』岩波新書 を参照していただきたい)
 こうした過去の歴史があるからこそ、発言者が子どもとコメディアンであってもジョークではすまないとして、全米で抗議活動が行われているのである。

 アメリカは米国債を通じて巨額の借金をしているのだが、その上位2か国が日本と中国である。この侮辱発言問題は、日本にも通じる問題でもある。成り行きを注意深く見ていきたい。
写真=ジミー・キンメル氏、attributed by Angela George,the Creative Commons

親密な米中関係と日本

Obama_Jiabao in Copenhagen 2011年オバマは中国の胡錦濤国家主席の訪米を、「今後30年間の基盤をつくりうる」と評価したというから、並々ならぬ歓迎ぶりだった。一方の胡主席も「前むきで協調的、かつ包括的な関係を進める」と語り、〝相思相愛〟ぶりを見せつけた。 
 その訪米では、米ボーイング社による旅客機売却など計450億ドル(約3兆7000億円)のお土産つきで、財界を喜ばすことに必死なオバマ大統領をアシストした。
 一方で、中国はフランスや日本などの先発国と競うために、ゼネラル・エレクトリック(GE)と共同で米国内での新幹線建設を計画している。2010年12月には中国の車両メーカーである中国南車とGEが、米国内に合弁会社を設立。新幹線のような中国の経済スピードを象徴する出来事といえる。  

 菅政権がいじましく米国のご機嫌をとっている間に、米国はすでに日本よりも巨大な経済的利益の道を中国に切りひらいている。たしかにオバマ政権は中国の人権問題を批判したりしているが、これまで米国が世界でやってきた無数の虐殺行為を見れば、中国の人権問題を批判する権利などあるわけがない。
 そのことを知っている胡錦濤主席は、人権問題にたいする記者の質問にも、一度は回答しなかったことについて、通訳の問題で聞き取れなかっただけだと余裕をみせ、「中国国内でなすべきことはまだたくさんある」(『朝日新聞』2011年1月21日)と門前払いではなく、人権問題に正面からむき合った回答を用意した。

  これは人権問題に敏感な米国へのリップサービスだったといわれる。ただし人権より経済発展に軸足を置いている状況に変わりはない。一党独裁体制によって、国と地方の財政を総動員して10%以上の経済成長を進めている現状は、当分つづくと予想され、あたかも国家資本主義の猛走となっている。
 中国の人権は21年前の天安門事件であきらかになったように、ずっと弾圧されつづけている。しかも現在は経済成長とインフレによって、下々の生活が厳しく、一部では飢餓が発生するほどになっている。

Jasmin Revolution これは植民地解放のあと独裁政権がつづき、30数年ぶりで民主化運動がはじまったチュニジア、エジプト、ヨルダンの動きと関連づけて考えられる。昨年末、チュニジアの首都チュニスに行ったとき、そこで会った日本に留学経験のある実業家は、ベンアリ大統領一家の専横について話しつづけた。
 彼はスーパーマーケットにさしかかると「これは大統領夫人のものです」といい、ビル工事を請け負っている建設会社の名前を見ると「これは大統領の息子のものです」というし、自動車ディーラーを指さしては「これは大統領一家のものです」と語った。国内のすべての企業が大統領一家に関連あるといって笑う。
 彼の話によれば、ベンアリ大統領は軍政権を引き継いだときに教育政策だけには力を入れたという。そのため彼のように海外に留学する青年が多かった。今回のジャスミン革命の中心となっていたのは、そうしたインテリたちだったから皮肉だ。
 
 中国も経済成長を維持するために、米国を中心に多数の留学生がいる。近い将来、そうしたエリートが経済政策をつくっていくことになる。彼らが一党独裁に疑問を抱き、民主化運動を支えていく可能性は高い。これまでの民主化運動の中心は、北京大学などの国内育成エリートだったが、それに変わる革命分子を中国は内部に抱え込むことになる。
 経済発展しようとすれば、民主化せざるをえない。軍政から民主化にむかった韓国の歴史が、それを証明している。チュニジアの問題は北西アフリカのマグレブ諸国の問題と考えられており、中国に波及していく可能性が見落とされている。隣国の民主化に期待したい。(談)

「鎌田慧の現代を斬る」2011年1月

写真上=オバマ大統領と胡錦濤前国家主席,2009年12月,in the public domain
写真下=チュニジア、ジャスミン革命、2011年1月,クリエイティブ・コモンズ CC0 1.0

トヨタに“暴走" 隠蔽の旨味を教えた 20 年前の悪しき教訓

 米国議会の怒りに油を注いだのは、北米トヨタの稲葉良社長名で作成された社内文書だ。07 年にカムリなどがリコールされた際、ロビー活動によって備品であるフロアマットが原因となり、費用を1億ドル以上節約できたと、そこには書かれていた。
 この文章が本物かと公聴会で追求された豊田社長は、「ここに書かれている英語がわからない」と明言を避けた。これではトヨタの“隠蔽体質”を疑われても仕方があるまい。
 また、そうした企業体質をうかがわせる事実もある。
 
 07 年3月には米国で、08 年12 月には欧州でアクセルペダルの不具合にかんする苦情が寄せられていたのに、米国でのリコールは10 年1月だった。米国で一家4人が暴走の末死亡した事故から3ヶ月以上たってからだ。
 加えて、元連邦政府の安全調査官がトヨタに天下りしてことで、連符政府の調査がかなり限定されたものになった、とABCニュースは報じている。
 自社のみならず、政治力を使っての隠蔽など、トヨタへの疑惑が膨らむ一方である。問題はこうした「体質」は、労働者と下請、孫請会社をいじめた過剰生産をつくりだした。「安全第一」から「世界第一」へ急カーブを切っていたのだ。

変節した運輸相
 ここで改めて振り返ってもらいたいのは、80 年代末に起こったオートマチック(AT)車による暴走事故である。
 運輸省がまとめたAT車の暴走件数は、83 年は39 件、84 年44 件、85 年62 件、86 年67 件にとどまっていた。AT車の暴走が騒がれはじめた87 年は、430 件と急増している。このときはトヨタだけではなく、日産・ホンダ・三菱・マツダなど日本のほとんどの自動車メーカーに加え、外車の暴走も指摘された。しかしメーカー各社は、アクセルとブレーキの踏みまちがいだとして自社の不備を認めることはなかった。

 それでもドイツのフォルクスワーゲン車と日産が提携して生産した車が、電子部品の不具合からエンジン回転数が上がる不具合が露呈。日産は部品の無料交換をおこなった。
 こうした事態を受けて、構造上の欠陥はないとして主張しつづけてきた日本自動車工業界も、業界として初の調査に乗りだした。しかし2年ばかり調査して結果は「急発進・急加速現象が全AT車に共通に起こる構造的な欠陥はなかった」というものだった。
 
 このとき同工業会の会長だったのが、豊田章一郎トヨタ自動車社長である。
暴走問題の原因調査に乗りだした旧運輸省は、中間報告で急発進・急加速の事故や苦情261 件のうちの約半分が、運転手の捜査ミスとは考えにくいと指摘。それなりの気概はみせた。
 ところが、その報告から1年後の最終報告では、「ブレーキ操作が適切なら車は止まる」という消費者をバカにしたような結論を導きだす。しかも実車テストに実際に暴走した車を入れなかったうえ、苦情や事故の4分の3を「原因不明」としたままなど、調査の妥当性を疑わせる報告となった。 〈この項、つづく〉
月刊「記録」2010年3月号

米軍の監督義務を日本が負う

12月16日付「横須賀・イラク 女性や子供たちの叫び声」の続きになります。

 JR横須賀駅のすぐ前から展(ひら)けている入り江には、米軍の艦艇や潜水艦が碇泊(ていはく)し、すこし離れて海上自衛隊の艦船が並んでいる。
 わたしは、問題のキティホークを一目みたかったのだが、見当たらなかった。前日にどこかへ出航していった、という。 

 2006年10月20日、横浜市中区日本大通の横浜弁護士会館で、記者会見がおこなわれていた。
 元米兵に殺された佐藤好重さんのふたりの息子と彼女の婚約者とが、犯罪者の元米兵と日本政府を被告として、損害賠償請求の裁判を起こしたのだ。 
 在日米軍は、旅券、査証、外国人登録やその管理に関する日本の法律の適用から除外されている。米軍が基地の使用権、管理運営権、警察権などをもっているため、日本の行政警察権は、大幅な制約をうけている。

 だからこそ、在日米軍は、自律的統制を必要とし、米兵を監督する義務を負う。
 ところが、罪を犯す高度の蓋然性があるのに、上司がそれを予測し、防止する、という注意義務に違反する違法行為があった。 
 日米地位協定にもとつく「民事特別法」によって、米兵の公務中の違法行為による損害は、米軍に代わって、日本政府が損害賠償責任を負う、と定められてある。 

 記者会見に出席した山崎正則さんは、背筋のしゃっきりした人物で、いかにも篤実なバスの運転手の風貌である。被害者とは、職場で知りあっていた。
 損害賠償の裁判は、たいがいカネ稼ぎとの悪評を浴びがちだが、それも覚悟のうえ。 
 「二度とこのような悲惨な事件を起こさせないためにも、米兵個人を罰するばかりではなく、米軍の監督責任を追及したい」と彼はいう。 

 警察ははじめのうち、山崎さんを犯人と疑った。出頭させて、午前2時まで尋問し、家宅捜索までおこなっていた。
 一方、さっそくやってきた防衛施設庁の課長は、いくらでもいいから、ここに金額を書いてください、と領収書を取りだした。米兵の交通事故などでもよくやる手慣れたやり口である。 

 米海軍横須賀基地の前で写真を撮っていると、フェンスのなかから、警備を担当している、迷彩服姿の若い自衛隊員がでてきた。 
 「基地のなかは写さないでください。米軍を刺激しますから」 
 いつの間にか、基地のゲートさえ撮影禁止になってしまっている。これだけ、公然と日本の領土を占拠し、住民に被害を与えていながら、その存在自体が秘密の基地にされていく。にもかかわらず、若い米兵やアメリカ人家族たちが、その周辺をさかんにあるきまわっている。頭隠して尻隠さず、というべきか。 

style=  横須賀港には、2008年、キティホークに代わって、原子力空母「ジョージ・ワシントン」が配備される計画がある。
 約40万キロワット級の原発が、大都会のそばの海上に置かれることになる。軍事施設だから、原発よりもさらに危険だ。 
 2006年9月には、横須賀港の海水から、コバルト60などが検出された。出港していった原子力潜水艦から排出された、と推測されている。 

 米軍の極東・中東の軍事戦略に従属している日本の基地は、これから、米軍の世界戦略強化のための一方的な再編と日本を戦争にまきこむ日米共同作戦によって、ますますキナ臭いものになっていこうとしている。 
 2007年7月5日、横須賀市内のアパートで、日本人2人の女性が、19歳の米兵に刺傷される事件が発生した。

『痛憤の現場を歩くⅡ 絶望社会』金曜日、2007年9月


写真=横須賀に入港する原子力空母ジョージ・ワシントン、アメリカ海軍、パブリック・ドメイン
↑
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。